殻の長さ７センチにもなる二枚貝ですが、県や市が行う河川改修や農地整備が
原因となって全国的に減少しています。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種、
長崎県レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類にランクされています。
私は、福江のアブラボテについては30数年前の子どもの頃から知っていましたが、
福江で生きたマツカサガイを初めて見たのは２００８年５月のことです。
長崎県や五島は自然保護意識が遅れている地域ということもあって、
島内ではマツカサガイがすめるような場所はどんどん公共事業によって
失われてしまっています。今後もその危険性が続くわけですが、2011年6月現在での
福江島のマツカサガイ生息状況をご報告しましょう。
現在までに私が把握しているマツカサガイ生息地は４カ所。うち1カ所はまだ死殻
のみの確認です。
まずはC地区。ここは2008年5月に私が初めてマツカサガイを見た場所で、
一帯は水田地帯です。田んぼのすみを流れる小川、そして田んぼの水路に多くの
マツカサガイが生息しています。この場所の良いことは、福江でも珍しく、コンクリ固め
されていない水路が一部残されていることです。小川も同様ですが、そのおかげで
水底にマツカサガイがすむことができています。
時々ようすを見に行くのですが、2011年5月に行った時には多くのマツカサガイを
確認することができました。ただ、気になっていることがいくつかあります。
ひとつは、大型サイズの貝が多いことです。ちゃんと探せば小さな貝もいるのかも
しれないですが、大型の貝ばかりが目立つ印象があります。それは、もしかしたら
次世代が続いていない、つまり繁殖がうまくいっていないという可能性がありはしないかと
いうことです。人から聞いた話ですが、同じ長崎県の壱岐では河川改修のために
タナゴ類が壊滅的な被害を受けているそうで、マツカサガイも大型ばかりで小さい貝が
いないところがあるといいます。
このＣ地区の小川、水路の場合、実は小さい貝がいる（いた）痕跡はあります。
死殻は小さいものがたくさん見つかるのです。農薬などで死んでいるということなのか？
そこは現在、よくわかりません。
繁殖のカギを握るひとつが、魚の存在です。マツカサガイの幼生は一時期、魚の
ヒレなどに寄生して過ごしますから。カワムツやドジョウ、ヨシノボリなどが寄生相手として
向いているそうですが、Ｃ地区の水路で確認しているのはヨシノボリ類をわずかに
見たのみです。2011年５月には、ウキゴリの幼魚とウナギの幼魚を1匹ずつ見ただけで
ほかは見かけませんでした。ドジョウがいるかもしれませんが…魚はちょっと少なめ
かもしれません。ただ、多くのマツカサガイがいるわけですから、それだけの運び屋が
いたということは間違いないのですが…今後も要観察です。
２カ所目はＡ川です。アブラボテが生息していた小河川ですが、2011年12月に毒物が流れ、
魚が大量死してしまいました。ここでは2009年の７月に一度だけ、生きたマツカサガイを
見つけました。しかし、それまでの県の調査でも生きた状態で見つかったことはなく、
魚類研究者も、なぜこれほどマツカサガイが少ないのか（アブラボテが繁殖しているにも
関わらず）不思議だと言っていました。
幼生の運び手はカワムツ、ヨシノボリ類などたくさんいましたから問題なかったはずです。
しかし川底に小石が多くてごちゃごちゃしているので、見つけにくいということはあるはずです。
今後も機会があれば探してみようとは思っているのですが…現在は魚がほぼ全滅して
しまっているので、生き残っているマツカサガイがいるとしても、今のままでは繁殖が
できないということになります。それゆえ、今後、このＡ川と同じ水系の川から魚を
導入していこうと考えています。九州大学の魚類研究者にアドバイスをもらいながら
進めようと思っていますが、まずはカワムツを入れようと考えています。
が、このＡ川では今後に河川改修を控えており、それを早く終わらせてほしいと思っている
ところです。でないと、復旧計画も不透明になってしまいます。どうやら流域住民の理解を
得られていないふしもあるので、長引くことも予想されています…いっそのこと、
改修をやめてくれてもいいんですが（笑）。
（Ｄ地区）
3カ所目は、2011年5月に確認した場所です。Ｄ地区としておきましょう。
この付近では、島内の知人が以前からマツカサガイの死殻を見つけていました。そして
2011年になってから生きたマツカサガイを見つけたという連絡をもらっていたのですが、
私も遅れて確認しました。
ここもコンクリ固めされていない貴重な用水路で、カワムツやヨシノボリ類がたくさんいます。
肝心のマツカサガイも、地点によっては驚くほど高密度に見られます。
ほとんど岸辺（水深１センチぐらい）、というようなところにもいますし、20センチ四方で
４、５匹いたりもします。最初に挙げたＣ地区以上にたくさんいるように思いますが、
さらに幸いなことに、大小様々なサイズが見られるのです。繁殖が盛んであると考えられます。
素晴らしい生息地ですが、心配なことは、圃場（ほじょう）整備です。これはＣ地区でも
同じ懸念があるのですが、コンクリ改修されてしまったら完全にアウトでしょう。
五島行政は自然保護に関しては発想の外にあると言ってよいほど意識が遅れていますし、
住民も基本的に無関心ですから、ここは本当に心配です。
むしろ土木工事をしたがるでしょう。
所管の農協とかに要望を出しておくぐらいはしておいたほうがよいのでしょうか。
やるのは構わないのですが、限られた滞在日数の中でやることばかりが増えていく感じ
ですね（笑）。
（泥の中に埋まっているようす）
最後の4カ所目は、Ｂ川です。ここはかつてマツカサガイが多産したというのですが、
川がそこそこ大きくて深めであることと、大型のコイが走り回って泥を巻き上げて
しまうため、貝を探すのは非常に困難です。
が、2011年5月、川の中を歩いていた時にマツカサガイの死殻を見つけました。
私としてはここでは初めての確認になります。1980年前後の大改修のために
その数は激減したと考えられるのですが、どこかで生きているのです。
もっと上の流域も探す必要がありますが、川が大きいので、日数をかけないと
私一人では無理でしょう。アブラボテ調査も合わせて、スキューバを使った
調査もやってみたいのですが、なかなかそこまでたどり着けません。
ということで、現状では４カ所です。この他に、春に知り合った島内の方から
２カ所ほど可能性のある場所を聞いていますが、まだ調べられていません。
しかし、ひとつ言えることは、マツカサガイは田んぼの水路とか、ほどほど生活排水が
入っている川とか、そういった場所を好むのだということ。たぶん、有機物の少ない
きれいな川には少ないと思います。
今後も生息地調査を広げていきたいと考えています。よい水路が、工事の対象として
五島市に目をつけられないように祈りつつ。
(2011.7.6記）
その後、この水路が流れ込む川でも多数のマツカサガイの生息を確認しました。
しかし、すぐ下で長崎県（五島振興局建設部）による河川改修が進行中です。
不要不急な改修工事をいったいどこまでやるつもりなのか、場所を確認していますが…
こうして、自治体による自然破壊は着々と進んでいくのです。
福江の人は心配にならないのか、けっこう不思議です。
(2011.8.20追記）