五島列島 福江島の博物誌〜五島と原発〜15
福江の土を放射能検査した


2014年1月6日、私は東京にある放射能測定所、「にっこり館」を訪れました。
前年10月には、東京の杉並区で私が使用していた掃除機のダストパック
や空気清浄機のフィルターを測定してもらったのですが、この日はビニール
袋に入れた土、3つを持ち込みました。



このうち2つは、福江島で採取した2カ所の土です。具体的には、現在の私の
島内居住地である上大津町の空き地の土と、鐙瀬ビジターセンター敷地内の
土(許可を得ています)、いずれも2013年12月18日に採取したもので、地表か
ら5センチほどまで堀り取りました。



福島第一原発の事故以降、驚くべきことに、国は日本各地の土壌汚染の
データをとっていません(あるいは、こっそりやっているかもしれませんが)。
東日本の自治体も、いまだに放射能汚染について無知であったり、経済的
理由(住民が減るとか、不動産価値が下がるとか)から検査をしないところ
がほとんどで、民間団体や個人が自費で行っているのみです。
特に、深刻な放射能汚染がなかったと見られる西日本では、土壌汚染の
測定例もまだまだ不足しています。
五島列島でもそれは同様で、五島地域の土壌汚染測定データはこれまで
見たことがありません。そんなわけで、これはおそらく五島で初めての測定
となるでしょう。

西日本の他地域の測定結果から、福江の土壌からは、福島由来の放射性
物質(放射性セシウム)は検出されない可能性が高い
、と事前に予想しまし
た。
そして、気になる結果は…
2カ所とも「不検出」となりました。放射性セシウムが検出されなかったのです。
幸いにも、予想した通りでした。
島内2カ所の土を測っただけではありますが、この結果を見る限り、福江島
では、福島原発事故が原因の放射能汚染は極めて少ないのではないかと
思われます。

福島の事故では、一説には200種類もの放射性物質が放出されたと言われ
ています。その中でも特に量が多いものが放射性ヨウ素、放射性セシウム
です。この中で、放射性ヨウ素は8日ごとに半減するため、事故から3年近
い今では基本的に検出されません。そして、放射性セシウムのうちセシウム
137
は半減するのに30年もかかり、セシウム134は2年ごとに半減します。
1950年代〜60年代頃の大気圏内核実験でも放射性セシウムが地球全体
にばらまかれたわけですが、当時のセシウム134は2年ごとに半減していった
ため、数十年たった今では、あまり検出されません。しかし、福島の事故から
はまだ3年ほどであるため、その時に放出されたものが今もたくさん残ってい
ます。それゆえ、現時点の測定でセシウム134が検出されれば、それは福島
の事故に由来する汚染であると推測できるわけです。
しかしながら今回、福江島の2カ所の土からはセシウム134は検出されませ
んでした。
一方、半減期が30年もあるセシウム137は、福江の土からも検出されるか
もしれないと考えていました。それは、さきほども書いたように、過去には大
気圏内核実験が盛んに行われていたからで、その時のセシウム137は今も
1/4程度は残っていると思われるからです。しかし、このセシウム137も、
今回は検出されませんでした。福江の他のエリアではどうか、あるいは、
今回の機器では測定できない放射性ストロンチウムはどうなのか、など、
問題がないわけではありませんが、とりあえず、福江に住んでいる方々は
安心して良いのではないかと思います。

ところで、冒頭にも書いたのですが、私が今回持ち込んだ土は3つです。
2つは福江の土。そしてもう一つは、埼玉県春日部市の豊町という場所の土
でした。ここは、30年以上前に私の実家が福江から移り住んだ場所で、今も
両親が住んでいます。その庶民的な中流住宅地で、通路のように狭い庭の
土を採取しました。
福江の土は汚染されていませんでしたが、この埼玉の土ではどうだったでし
ょうか…。結果は下記の通りになりました。

 測定対象  採取日  測定日  セシウム137  セシウム134
住宅の庭の土
(埼玉県春日部市豊町)
 2014.1.2  2014.1.6  259.9ベクレル/kg  102.4ベクレル/kg

セシウム137と134、両方合わせて362.3ベクレル/kgの検出となりました。
セシウム134が検出されたことから、間違いなく福島原発由来であり、これま
での半減期を考えれば、事故当時の2011年3月には、セシウムだけで500
ベクレルを越える汚染であったと推測できます。
東京23区の平均よりはやや低い数値であるように思いますが、関東であれば
このように、多かれ少なかれ、大地は放射能に汚染されている。これが、
政府も自治体もマスコミもほおかむりしている、日本の現実です。
(※東京都の公式データでは、2013年の秋、新宿区内でセシウム合計650
ベクレル/kgの汚染が検出されています)
こうした場所で土ぼこりが舞えば、それを呼吸で吸い込むことになります。
もちろん、汚染されているのは土だけではありません。建物の外壁や木々な
ど、外にあるもの全てに汚染の可能性があります。そして、やがてそれらは
様々なルートで、室内にも持ち込まれることになるわけです。
両親にもこのことは伝えましたが、移住しようとまでは決断できないようです。
親はそれなりの高齢なので、リスクを理解した上での判断として、尊重する
ほかありません。
しかし、親がいるからとはいえ、私には、こうした環境で何もかも忘れて暮ら
すという選択はできませんでした。

本当に、原発さえなければこんなことにはならなかったのに…。
それをまだ、推進しようという自民党・公明党の国会議員は全員、一秒でも
早く死んでほしいと思います。さもなくば、私たちが選挙で落とすこと。
やられっぱなしには、なりたくないですね。
(2014.1.16)