長崎・五島列島福江島の博物誌～ふくえ雑記帳８
1980年の文集から

2008年の正月、倉庫の中をあさっていたら驚くべきものが出てきました。
私が福江島に住んでいた頃、緑が丘小学校5年生の時のクラス文集です。
1980年に作られたものですから、ほとんど30年近く前のものということにな
ります。わら半紙にガリ版刷り（※30代以下の人はわからないかもしれな
いですね…）、
「学習遠足の思い出」というタイトルがついています。

「学習遠足」とは、私の記憶では高学年になってからの行事で、いわゆる社
会科見学のようなものです。弁当を持って、1日をかけていろいろな場所を
見学するわけです。今はどうか知りませんが、行く場所は基本的に島内で
した。
私が小学生の頃は、島内には今のようなトンネルもまだまだ少なかったの
で、福江市街付近から三井楽（みいらく）町あたりにいくのも結構な時間を
要しました。ですから、島の子どもにとっては同じ島内であっても初めて行
くような場所がたくさんあったのです。

さて、中をのぞいてみました。すると、当時の生徒たちの筆跡がそのままに
残されています。私は小学5年を終えて島を離れましたから、私にとっては
福江最後のクラスメートたちです。
そのせいか、30年近く思い出さなかった人であっても、名前を見るだけで当
時の顔が鮮明に思い出されます。不思議なものですね。
しかし、やはりガリ版刷りのため、残念ながらもはや判読できない部分もあ
りました。

実は私はこの学習遠足のことを全く記憶していないのですが、みんなの文章
を読んでいくと、島の北西部の三井楽町方面にいったらしく、自衛隊基地、
漁業、白良ヶ浜などを訪ねたことがわかります。ちなみに下の写真が私の書
いた文章です。

当時の私によれば、「一番、心に残ったのは、漁協のことです。漁協で、ぼくが
おどろいたのは、二段ばり定置あみのもけいを見て、どうしてあんなへんなあみ
で、何万びきも魚がとれるのかふしぎでなりませんでした…(後略）」
だそうです。漁協に行ったことも、定置網の模型を見たことも一切記憶にないの
ですが…。人間とは不思議なものです。

さあ、前置きが長くなりましたが、実はここからが本題であります(笑）。
私は、この文集を読んでいて少なからぬショックを受けました。それは、学習遠
足で弁当を食べた「白良ヶ浜（しららがはま）」についての生徒たち（当時の私た
ち）の記述を読んでです。知らない方のために解説しておくと、白良ヶ浜というの
は、福江島の北西部・三井楽町にある広い砂浜海岸です。白砂が1・５キロほど
も続き、海水浴場にもなっています。
ちなみに下の写真は、まだ潮が満ちている状態ですが…。

以下、子どもたちの作文から1980年の白良ヶ浜を語ってもらいましょう。
福江市街付近に住んでいた子どもたちの多くが初めて見た、その印象とは…。

「白良ヶ浜には、うつくしかった所もあれば、きたない所もありました」
「…でも、とってもきれいだろうと思えば、ぞうり、わかめ、石油でつくられたもので
よごされていました」「ここへ来てからの第一印象はゴミが多いということです。
…せっかくきれいな所がゴミのためにこんなにきたなくなっているのでざんねんに
思いました。」
「すなはまはとってもきれいでしたが、あきかんやビニールなどがたくさんすてて
ありました。」
「しららがはまは思ってたより何倍もきたない…その場はゴミだらけ…」

どうでしょう。5人分だけ載せましたが、なんと、40人ほどの級友のうちなんと21名、
半数が白良ヶ浜のゴミの多さについて驚きや失望、怒りを表現していたのです。
いくつかの文章から、この学習遠足の前には台風が来たらしいこと、
2ヶ月ほど前には、そこまで汚くなかったらしいことがわかります。おそらく、
この遠足は秋で、台風によって通常よりかなりゴミが増えていたのでしょう。
しかし、それを割り引いたとしても、これが30年ほども前のことであることに驚か
されます。
そんなに昔から、そんなに汚れていたとは…。

当時、仲のよかった友人Ｈ君の文章には私の言動が出てきます。

「白良ヶ浜についてときにすなをさわってみたらべたべたしたので
きもちわるいなあと思いました。それからかいがらをとりに水にはいったら
Ｕ君（※筆者）が足にあぶらがついたといったのでぼくも足を見てみたら
ぼくのあしにもあぶらがついていました。」

私はこの時の記憶は全くありませんが…これは、いわゆる「廃油ボール」なのかも
しれないですね。海岸のゴミは、海外からのものも含めた漂着ゴミと島民が棄てた
ゴミがあるのでしょうが…。

「…この白良ヶ浜をたつ時に私はむねがきゅっといたむような気持ちになりました…。
私は白良ヶ浜のごみのことをわすれられませんでした。」

こんな文章を書いていたＡさん、今は私と同じく、きっと島にはいないのでしょうね。
あの頃の気持ちを覚えているでしょうか？私は忘れてしまっていましたけどね…。
１９８０年、小学５年の私たちをこれほどまでにがっかりさせた海岸のゴミ。
今は当時と比べて変わっていないのでしょうか？それとも…。
（0８.1.６記）