五島列島福江島の博物誌～ふくえ雑記帳４４
帰島宣言2014

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2014年3月3日
○○ ○○様

拝啓　桜の季節も近づいてまいりましたが、お元気でいらっしゃいま
すでしょうか。
新年のご挨拶でも申し上げたことですが、このたび私は、２０年ほど
おりました東京を離れることにいたしました。いったい何事かと驚かれ、
あるいは、いぶかしく思っておられるかもしれません。
　理由はいくつかございますが、大きなきっかけとなったのは３年前の
東日本大震災と原発事故です。あれ以来、私は人生についての考え
を大きく変えざるをえなくなりました。一言ではなかなか説明できない
のですが、例えば、関東では将来的な直下型地震の可能性も言われ
ておりますし、私にとっては、東京にいることの利点が非常に少なくな
ったのです。東京を離れようと考え始めたのは実は２年以上前から
ですが、ちょうど今冬、１年以上関わってきた仕事が一段落したので、
切りが良いタイミングとなりました。
　もうひとつの理由は、以前から、五島でやってみようと思っていること
があるからです。人口減少と共に、五島では自然や風習など様々なも
のが失われつつあるようで、私はそれらの一部を調べ、高いレベルの
映像で記録しておかなければと考えてきました。また、それを観光や移
住促進にも役立てることができるのではないかと目論んでおります。今
の私には体力的にも能力的にもそれが可能ですが、歳を取りすぎると、
それは難しくなりますから。
そのようなことで、私はこの春にいったん福江に戻ることにしました。
（中略）
職業的には○○という仕事を辞めたわけではないので、これまで東京
でやってきたことを、例えば長崎や福岡などに出張する形でできるよう
になることを目指すつもりです。ただ、五島に滞在することが、そうした
仕事をする上で不利なのはわかっていますし、甘い考えは持っていま
せん。ただ、私の人生は、多くの日本人とは違って、ビジネス（お金をも
らうためにする仕事）最優先ではないということです。
　五島から都会に出ていた人が帰ってきても、「なんで五島に戻ってくる
のか、バカじゃないのか」と、残念ながらそういった反応をされることが
少なくないと、友人からは聞いております。確かに、経済的なことをはじ
めとして五島は全てが良いとはいえませんが、悪いところばかりではな
いと申し上げておきたいと思います。もっと島のいいところを見つけて、
島民が自信を持つことが必要でしょう。私は、五島の価値を再発見した
いのです。

　今回の私の行動を理解していただくのは難しいだろうと思いますが、
福江の友人たちと協力しながら、私なりに五島の価値を高める努力を
するつもりなので、当面はお見守り下さればと思います。ただ、いくらこ
のようなことを申し上げても、実際問題、長く都会で仕事をしてきた私が
、五島で経済的にどこまで対処していけるかということはあります。また
、あるいは万が一ですが、将来的に、五島に対する郷土愛が尽きてしま
うということがあれば（土地柄が極めて保守的で、進取の気質に乏しい
ことを知っておりますので、これから自分のやっていくことが全く理解され
ない可能性もあると思っています）、五島を再び離れざるをえなくなるこ
ともあるでしょう。しかし、様々な分野において、福江で頑張っている知人
も複数おります。そうした方々とも交流しつつ、やっていくつもりです。最
低でも一年は滞在します。これから、私が今まで培ってきたことが問わ
れるのだと思っています。

　3月15日を過ぎた頃になるかと思いますが、一度ご挨拶にうかがうつ
もりでおります。今回、手紙を書かせていただいたのは、ご挨拶時に長
時間の説明となることを避けたいからです。この点、どうぞご理解下さい。
（中略）
　本日は以上、お伝えいたします。また、ご連絡申し上げます。　　
なお、このたびの件は全て、両親にも話してあることです。　　　敬具

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京都杉並区○○○○
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　×× ××

上記は、私が福江の親戚４軒に実際に出した手紙の文章です。

私は３／１０に東京の居所を引き払い、本当に福江に戻ってきました。
とにかく、いろいろなもの、東京での２０年で得てきた大切なものをたくさん
、本当にたくさん…手放しました。
放射性物質にかなり汚染されてしまった地域から退避したかったという理
由も大きいですけれど、私には福江でやるべきことがある、と（勝手に）思
っていることも大きいです。正直、どちらか一方の理由だけでは東京を離
れることはなかったかもしれませんが…様々な理由が重なって得られたタ
イミングが、この、2014年の春だったのです。

できれば、ずっと五島で暮らしていきたいと思っていますが、うまくいくか
どうかはまだまだわかりません。
某大学で経済関連の教鞭をとる友人には、下記のようにコメントされました。

>五島列島でのチャレンジは、凄いですね。
>短期的にみると苦労も多いでしょうが、長い目で見ると、充実した生活に
>なりそうな気がします。
>大企業や公務員の知人が多い中で、もっとも挑戦した人生のように映ります。

今は予想もしない問題も、これから起こっていくことでしょうが…
とにかく、自分次第でどうにでもなるはずと信じてやっていこうと思います。
そのようなことで、島を離れた１９８０年３月以来、実に３４年ぶりに島民と
なりました。
皆様、今後ともよろしくお願い申し上げます。
(2014.3.26)