長崎・五島列島福江島の博物誌～ふくえ雑記帳１６
視界不良

テレビを見ていると、突然福江が登場して驚かされることがあります。
昨日もそうでした。録りためていた深夜のテレビ番組を見ていた時のことで
す。番組はテレビ朝日系の「テレメンタリー２００８」。硬派なドキュメンタリー
番組で、私は好きで毎週見ています。そのテレメンタリー、7月7日深夜の放
送のタイトルは
「空からのSOS～大気異変・鳥越最前線リポート～」。
中国の大気汚染が国境を越えて広がっていることをキャスターの鳥越俊太
郎氏がレポートするという内容で、番組の後半、舞台は福江に飛んだのでし
た。私は全然知らなかったのですが、それによると2007年4月、福江島で初
めて光化学スモッグが起こったというのですね。女子高生が目の痛みを訴
えたといいます。
「光化学スモッグ」はふつう都市公害のひとつと認識されている現象で、大気
中の窒素酸化物と炭化水素が強い日光によって化学反応を起こした結果、
有害なオキシダントやホルムアルデヒドなどを発生させるものだといいます。
目やのどを刺激し、しびれや呼吸困難を引き起こすこともあるそうです。

私は１９８０年、小学五年生の終わりに福江を離れ、埼玉県春日部市に引っ
越しました。ここでは時々、光化学スモッグの注意報が出て、子どもながらに
「へえ、光化学スモッグか。どんなことが起こるんだろう」と変に興味をそそら
れたものです。

さて、番組では鳥越俊太郎氏が福江にやってきて、保健所の人や漁師に
インタビューしていました。登場した漁師さんによれば、かつては海上から
長崎半島が普通に見えたというのですが、今では滅多に見えなくなってし
まったとのこと。要するに、中国から風に乗ってやってくる黄砂や、化学物
質を含んだ工場の排煙によって日本の空気も汚れているというのです。
ここで、私ははっと思うことがありました。
下の写真をご覧下さい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(07.1.18:笹岳・白岩より)

2007年の冬、私は福江を訪れました。なぜ冬に？と思うかもしれませんが、
それは空気の澄んだ冬に、福江の山頂から風景を撮影しようと考えての
ことでした。しかし、その時撮れた写真は上のようなものだったのです。
特に解説はいらないかもしれませんが、妙にかすんでいるのです。
この時、私は七ッ岳にも登るつもりでしたが、地上から見ていてもあまりに
視界が悪いので、やめました。叔父に「黄砂はこんな時期にも来るとね？」
と聞いても「わからん」ということで、そのままにしていました。
やはり、今考えるとこれも中国が原因なのかもしれませんね。
中国では砂漠化が進む地域もあって、そこでの砂嵐の映像はけっこうす
ごいものでした。こうした場所の影響が、７００キロほどしか離れていない
五島には強く現れるということなのでしょうか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(07.1.22:山内展望台より七ッ岳方面)　

思いもよらぬ問題で視界不良の福江島。
しかし、視界不良なのは経済も、のようです。今月（08年7月）に島の大型
ショッピングモールのひとつ「シティモール」が閉店するとのこと。
離島の経済は先行き不明、核廃棄物処分場やら自衛隊・米軍の演習場
を誘致するという噂まであるようです。どれにしても最悪の選択であると
思いますが、経済的に厳しいところに金でほっぺたを叩かれれば、なびい
てしまうのが普通の人というものでしょう。五島の行政にも、それを拒否
する気概があるかどうか怪しいものです。諸手を挙げて推進するかもし
れませんね。福江を取り巻くもやの向こうに、ヘラヘラと笑っている鬼た
ちの顔が見えるようです。
（08.7.10記）