五島ダイビング事情 07

ダイバーの皆さん、ぜひ一度、五島の海に潜って見て下さい。
というわけで、五島で潜ってみたいと思っているあなたのために、
私なりのアドバイスをさせていただきましょう。

五島のダイビング概観

私がスキューバダイビングを始めたのは１９９２年。当時アルバイトをしながら
滞在していた小笠原諸島・父島でのことでした。それから国内外のいろいろな
地域でダイビングをしてきましたが、五島の海に初めてスキューバで潜ったの
は１９９８年の夏。
当時、五島列島には福江島にわずか１軒のショップがあるのみでした。それか
ら時は過ぎ、０７年９月現在、五島列島には４軒のダイビングショップがありま
す（下表）。福江島に２軒、上五島（かみごとう）の中通島（なかどおりじま）に２
軒。このうち私は３つのショップにお世話になってきました。

これまでのダイビング経験から五島のダイビングについて言えることがありま
す。まず、全体としてはレジャーダイビングが非常に遅れているということ。
五島内でもそれぞれのショップで差はありますが、平均すると伊豆半島や沖縄
など、国内のダイビング先進地と比べると１０年は遅れているのではないでしょ
うか。
これは、快適にダイビングをするための施設や、ガイディングレベルなどを総合
的に見た上での遅れです。例えば、福江ではきちんとした機材洗い場を持つシ
ョップはありませんし、細かいリクエストへの対応は難しいです。例えば「イサキ
の大群を見たい」とか「クマノミを見たい」程度なら大丈夫ですが、「ツキチョウチ
ョウウオを見たい」「ニラミギンポをみたい」とか、このレベルになると無理です
(福江の場合）。自分で見つけるしかありません。また、ガイドによっては、こちら
から聞かない限り、エントリー前のブリーフィングをしないこともあります。

こういった点では、福江よりも上五島・中通島のショップ（１軒しか知りませんが）
のほうが明らかに先を行っています。見たい魚などがあれば、リクエストにもちゃ
んと答えてくれます。
また、ホームページなどを通じての情報発信についても、上五島のショップのほ
うがはるかに充実しています。ショップの担い手が、上五島のほうが若手である
ことも影響しているでしょう。

さて、広大な海に囲まれながら、五島のレジャーダイビングがなぜ遅れているの
か。その原因の第一は、訪れるダイバーの数が少ないことにあるでしょう。
これは、同じ島でも大消費地・東京を近くに持つ伊豆諸島や、飛行機でアクセス
が容易な沖縄などと比べるとよくわかります。例えば、私がよく行く伊豆諸島・八
丈島は面積は福江の５分の１、人口も９０００人ほどで福江の４分の１以下です
が、ダイビングショップは３０軒を越えていると思います。これと福江の２軒という
差は圧倒的です（２００５年までは１軒でした）。こうした差は、やはりショップの力
量に差を生んでいくと思います。

また、観光客としてのダイバーが少ないということは、島民のダイバーへの認識
にも大きく影響することになります。例えば、五島で「ダイビングをしてきた」とい
うと、「何ば穫ってきたとね（何を穫ってきたのか）」と言われます。そして、「サザ
エもアワビもとっとらん。写真ば撮った」と答えると驚かれることが多いです。五
島では、いまだにダイビングは漁の手段という理解が普通なのです。上五島の
ダイビングショップで聞いたのですが、五島のある海域で潜っていたところ、密
猟者として警察に通報されてしまったそうです。これからダイバーが増え、観光
業として大きくなっていけば状況も変わっていくでしょうが。

週末・あるいは複数で行くことをお勧めします

さて、五島でダイビングをしてみたいと思ったあなたにお勧めするのは、可能な
ら複数で行くことです。
というのは、特に福江島に言えることなのですが、燃料代の関係から、客が1人
の場合はボートを出してもらうのが難しいからです。
夏以外は週末であってもダイバーが少ないので、せっかく福江でダイビングしよ
うと思っても一人で行った場合は断られてしまうこともあるでしょう。複数で行か
ない限り、平日のダイビングも難しいということになります。ビーチポイントがあれ
ば一人客でも対応できるのですが、福江ではビーチポイントはほとんど開発され
ていない状況です。
（※2007年10月現在、福江島の「A2マリンクラブ」のHPを見ると、一人からも対応
してくれるようです。詳細はお問い合わせを）
また、人数が多くない限りは、遠いポイントのリクエストも難しいです。これも燃料
代の問題です。私も最近まで知らなかったのですが、ボートの燃料代って驚くほ
ど高いんですよ。というより、船が食う燃料の量がすごいということなのかもしれ
ないですが。

一方、上五島の中通島ではビーチポイントがあるので、平日の一人客でも対応し
てくれます。こうした事情から、友人ダイバーと休みが合わせられない私の場合、
福江よりも上五島に行ってダイビングをすることが多くなっています。

五島市のダイバー誘致は成功するか？

観光客としてのダイバーがまだまだ少ない五島列島。しかし、少しずつ状況が変
わっていくかもしれません。例えば、ホームページによる宣伝効果。上五島のショ
ップには、遠方からもずいぶんお客さんが来るようになっていると聞きます。福江
のショップも参考にしたほうがよいでしょう。

また、07年は私も驚いたことが２つありました。
一つは4月、東京の池袋で行われる「マリンダイビングフェア」に五島市観光協会
が出展したことです。これはこれで画期的なことだと思います。私も会期中に現地
に行き、観光協会の人と五島のダイビングについて話をしたりしました。幸いなこ
とにパンフレット類はほとんどはけてしまったそうで、それなりの宣伝効果が期待
できることでしょう。ただ、ブースに掲げられていた宣伝文句には仰天しました。
なんと、「日本のグレートバリアリーフ」という文字が掲げられているではありませ
んか。グレートバリアリーフというのは、オーストラリアの南西部に広がる世界最大
のサンゴ礁で、その長さはおよそ2000キロ。宇宙からもわかるといわれる桁違い
の巨大サンゴ礁です。私は、五島の海は確かに素晴らしいと思います。サンゴだ
ってあります（サンゴ群落はありますが、サンゴ礁はありません）。だからといって
福江の海をグレートバリアリーフに例えることには、私は相当な違和感というか、
無理というか…ズレを感じます。五島の海がそれに劣るというのではなく、例えと
しておかしいと思うのです。福江よりサンゴが多い場所は、日本にたくさんあるの
ですから。
ブースにいた方に聞いたところ、五島市観光協会にはダイビング経験者はいない
とのことでした。要するに、ダイビングもグレートバリアリーフも知らないまま五島
のダイビングを宣伝してしまったということなのですね…。「日本のグレートバリア
リーフ」という文言はどこかの広告会社が考えたのでしょうが、それがノーチェック
で出てしまうことがそれを証明しています。池袋の会場に来たダイバーの目に、こ
れはどのように映ったことでしょうか。

もう一つの驚きは、有名なダイビング雑誌「マリンダイビング」の07年9月号（8/10
発売）に福江島の特集が数ページ組まれたことです。記事のタイトルは確か、「海
の中も世界遺産級」とかそういう感じだったと思います。五島を含む長崎の教会群
が日本政府の世界遺産の暫定候補リストに入っていることを受けてのものですね。
ダイビング雑誌はおよそ３誌の月刊誌がありますが、私の知る限り、数ページとは
いえ、五島の海が特集されたのは初めてかと思います。しかし、いい悪いは別にし
て、実はこれは記事ではなく広告なのです。
私はかつて、ダイビング雑誌に五島の海が紹介されないのはどうしてなのだろうと
不思議に思っていましたが、今はその理由を知っています。ダイビング雑誌の記
事の多くは、取材先から広告料をもらって掲載するコマーシャルなのです。つまり、
五島の海がこれまで雑誌で紹介されなかったのは、「五島からは広告希望がなか
った」からなんですね。
1ページあたりかなり高額な掲載料だそうですから、五島市観光協会と福江のショ
ップには相応の効果があることを願っています。それにしても…ダイビング雑誌も、
もっと自主的な取材をしたらどうなのかと思いますが。まあ、どっちにしても一種の
広告業ですから無理なのでしょうね。
それから、五島市観光協会さんも、ダイバーさん、いらっしゃいいらっしゃいという
だけでなく、ダイビングのことをしっかり研究されたうえで宣伝したほうが効果があ
ると思います。できることなら、福江と、そして他のダイビング先進地と両方のダイ
ビングを経験することをお勧めします。そうすれば、五島の海の良さもわかるでし
ょうし、五島にダイバーを呼ぶには何が足りないかもわかるのではないでしょうか。

でも、ダイバーの皆さん、ぜひ一度、五島のワイルドな海に潜りに来てください。
決して損はしないと思いますよ。
(07.9.1記）